捏造論文?-2020/05/14
Natureの論文に対する捏造疑惑が上がっている。
This is not great. A @Nature paper about SARS-CoV-2 pathogenicity with a possible overlap in photos representing different treatment groups. HT @RuneLinding who asked me to look at the paper.#ImageForensics pic.twitter.com/yszJ4Cw4GU
— Elisabeth #StayingAtHome #StayingAlive Bik (@MicrobiomDigest) 2020年5月12日
ここで指摘されている論文は、Nature webサイトに5月7日に掲載された、
The pathogenicity of SARS-CoV-2 in hACE2 transgenic mice
Bao L. et al., Nature, in press, DOI:10.1038/s41586-020-2312-y
である。実は、この界隈の研究が他人事ではなくなってきたので、元々この論文に軽く目を通していたのだ。
研究のバックグラウンドを解説するとSARS-CoV(今回流行している感染症の原因ウイルスではなく、10年ほど前のSARSを引き起こしたウイルス)の研究において、
- ウイルスは、ヒトのACE2という受容体に結合して、細胞内に侵入する(参考:さらなる変異?-2020/04/18)
- ウイルスは、マウス2型肺胞細胞への感染を起こしにくい。
- ヒトACE2を発現する遺伝子組み換えマウスでは、ウイルスが感染しやすくなる
ということが分かっていた*1。このNatureの論文では、ヒトACE2発現遺伝子組み換えマウスに今回のCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2を感染させたところ、野生型のマウスよりもコロナウイルスによく感染し、ヒトと類似した症状を示した。という内容である。
全ウイルスゲノムの解析から、今回のSARS-CoV-2は、前述のSARS-CoVとある程度類似した配列を有していることから、ある意味予想された結果である。正直、Nature?と思うところはあるが、今後治験、研究ツールとしてのモデル動物としての有用性を示した重要な論文であることは間違いなかったのだろう。
最初に紹介した、Elisabethさんのツイートを解説すると、「野生型マウスにコロナウイルスを投与した肺組織像(WT-HB-01)」とヒトACE2遺伝子を有するマウスにウイルスを投与していない肺組織像(ACE2-Mock)」比較したデータが同じ組織切片の別視野になっているのではないか、という指摘である。このツイートに対するリプライをみると、他のデータのエラーバーなどに関しても疑問符が付いている。
北京協和医学院を責任著者とした大人数のグループであり、たしかにこのデータ量をこの短期間で仕上げるにはこれくらいのマンパワーが必要かな、と思っていたが果たして科学的に正当な論文なのかは謎である。
なお、この論文のPeer reviewに関しても公開されているが、自分はそこまでは目を通していない。13年前にアイオワ大学のグループが同様のマウスを用いた実験が行われており、アメリカのどこかには、マウス自体またはES細胞がストックされているはずであり、早い時期の検証が必要だろう。この論文で示されるはずだった内容については、科学的意義がある。ただ、論文の正当性については、別途検証が必要であり、主張が正しいか正しくないかとは無関係である。
*1:J. Virol., 81, 813-821 (2007)