馬鹿につける薬

東海岸在住日本人のblog

相分離生物学-2020/05/14

お題「#おうち時間

お題「わたしの仕事場」

たまには、研究者っぽい本を紹介。東京化学同人の「相分離生物学」。

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相分離生物学

 相分離というのは、日常でいうと「同じ液体である水と油が、混ざり合わず、一方が液滴を形成する」状態のことを指している。ここ数年で、分子細胞生物学、特に転写制御の分野においてこの相分離と極めて類似した現象が見られることが明らかとなってきた。RNAとタンパク質が水に溶けず相分離を起こすが、いわゆる不可逆的な変性を起こすわけではなく、”膜のない小器官を形成する”というのは自分にとっては衝撃的であった(自分はこの本で初めて相分離を知ったというわけではないが)。

本書は、比較的わかりやすい文体で書かれている上に、分子生物学の初歩から解説されており、初学者でも読みやすいだろう。また、最近こういう勉強からは離れたけれども、久しぶりに最先端の生命現象に触れたいという人にもおすすめできる本だ。

 

さて、ここ数年、相分離による核内小器官の理解とクライオ電子顕微鏡の発達による巨大複合体の構造決定、そして、次世代シーケンサーによる染色体の三次構造決定によって、多くの転写機構が明らかとなりつつある。特に、Top Journalでは、相分離・クライオEMで「すべてが明らかとなるはずだ」と言わんばかりの快進撃だ。自分はどちらかというと構造生物学よりは古典的なタンパク質の研究者であり、これらに首を突っ込んでも後発になってしまうだろう。次の時代を担うものはなにか、冷静に見極められたらと思う。