馬鹿につける薬

東海岸在住日本人のblog

さらなる変異?-2020/04/18

以前、outbreakの最初の段階で、大きく分けて先祖型(S型)と変異型(L型)の2種類に分類される感染力の異なるウイルスが存在するという論文を紹介した。

sera-lostdecades.hatenablog.com

まだ、bioRxivの段階で査読を経ていないが、SARS-CoV-2の変異に関する論文を紹介する。

 

www.biorxiv.org

 SARS-CoV-2は、そのゲノムに11種類の遺伝子を保有している*1。そのうち、どの生物種・組織・細胞種に感染するのか規定する重要なタンパク質がSpike (S) タンパク質である。また、このタンパク質は、ウイルスの表面に突き出ていることから、抗体の標的となることが多いこと*2、加えてワクチンを作る際の抗原として用いられる。

このSタンパク質のうち、受容体結合ドメイン(RBD)と呼ばれる構造は、ヒトの気道そして肺の上皮細胞*3の細胞表面に存在するACE2と呼ばれる細胞表面タンパク質と結合することから、肺においてウイルスが感染・増殖するのが諸悪の根源である*4

さて、冒頭で紹介したbioRxivのpreprintでは、SARS-CoVSARS-CoV-2の間で非常に配列が保存されているとされてきたRBD中に重要な変異が見つかったという論文だ。このため、著者らは、現在進行しているワクチン開発が失敗するのではないか、としている。このため、ACE2側のブロッカーを開発したほうがよい。と。ACE2はヒトがもともと持っているタンパク質であるため、当然抗体をヒトに作らせるというわけには行かない。このため、この場合には予防ではなく、治療薬としての位置づけになる。

ただ、この論文ではワクチンが効かないというデータがあるわけではない点と、抗体の認識部位(epitope)は必ずしも1アミノ酸で認識できなくなるという状況に陥るわけではない点には注意が必要である。この論文では、失敗と非常に強い口調で記載しているが、これははたして、査読を通るのだろうか。