コロナウイルスについて-2020/04/28
コロナウイルスってそもそも何なのか、やや分子生物学・生化学の知識がある人向けに解説をしてみる。
ウイルスには全部で7種類に分類され、コロナウイルスは第4群に含まれる。第4群は、(+)ssRNAウイルスを指す。
この表記では何がなんだかさっぱりだ。という方もいらっしゃるかもしれない。
ウイルスの遺伝情報
ウイルスは、自己増殖はできない(非生物的)であるが、遺伝子を有している(生物的)。現状では、非生物であるとみなしている*1。ヒトを含む私達が見慣れた生き物は、遺伝子を二本鎖のデオキシリボ核酸(DNA)、そして、リボ核酸(RNA)の形で保持しているが、ウイルスは、その構造中にDNAまたはRNAいずれか一方しか有さない。
核酸の構造
前述したウイルスの分類方法は、そのウイルスが有する遺伝子の記憶媒体・方法によって、分類がなされている。それならば、二種類にしか分類されないのではないか、と思われるかもしれないが、実際にはもう少し複雑である。生き物のゲノムは二本鎖のDNAであるが、ウイルスは一本鎖の場合もあるのである。
一本鎖核酸の場合、遺伝子の配列をそのまま5'末端から3'末端に有している(+)鎖と、その相補鎖である(ー)鎖のどちらか、という形になる。
コロナウイルスが属する第四類は、(+)一本鎖RNAウイルスであるから、かんたんに言うと、ゲノムRNAがそのままmRNAとして読める。ということになる。
RNAウイルスの特徴
RNAウイルスの特徴は、その複製のため必ずRNA依存的RNAポリメラーゼを有するということだろう。
ウイルスは、そのライフサイクルにおいて基本的には宿主の機構を借用する。たとえば、現在知られている限り、すべてのウイルスはリボソームは宿主のものを使う。生物は、内在的にDNAを鋳型としてDNAを合成する複製、DNAを鋳型としてRNAを合成する転写を行う。加えて、RNAからRNAを合成する経路も存在する*2。
宿主が、RNA依存的RNAポリメラーゼを有するにも関わらず、すべてのRNAウイルスは、独自のRNA依存的RNAポリメラーゼを有している。効率の問題なのか、内因性のRdRPが外因性RNAを排除する機構が存在するのかは、調べた限り分からなかった。また、これらの配列は保存されている*3。
治療方針
元来、一般的に知られたウイルスとして、インフルエンザウイルスが存在するが、こちらは(-)鎖の一本鎖RNAを有する第五群ウイルスである。また、少し前にニュースで聞いたエボラ出血熱の原因ウイルスも第五群ウイルスである。
最近名前を聞く治療薬候補のレムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として元々検討されていたものだ*4。なぜこれらの薬のスイッチが検討されているのか、という疑問に対しては先程のRNA依存的RNAポリメラーゼが鍵となる。ウイルスゲノムの構造が大きく異るにも関わらず、前述したとおり、標的タンパク質の基本的立体構造が高く保存されており、他のポリメラーゼへの阻害薬が適用可能である、と見なされたのだ*5。
余談(置いてけぼり感)
なお、coronavirus由来のRdRPがproofreading activity(3' to 5' exoribonuclease activity)があるという報告がなされている。このため、coronavirusは、自身のライフサイクルに必須な遺伝子が変異することを防いでいるようだ *6 *7 。